日本におけるかんきつ類の祖先の一つとされるクネンボを使ったリキュールの販売が6月8日、農林水産物直売所「湯の花」(南伊豆町下賀茂)で始まる。
クネンボは江戸時代まで主流だったミカンで、現在広く出回っている温州ミカンなどの祖先であることが明らかになっている。下田に来航したペリーの歓待に使われた、黒船で密航しようとして捕まった吉田松陰が獄中で食べたなど、伊豆南エリアの歴史と深く関わる逸話も残されている。その後、夏ミカンや温州ミカンが広がっていく中で、酸味が強く種も多いクネンボは徐々に姿を消していった。
伊豆南エリアでも長らく栽培が途絶えていたクネンボだったが、南伊豆町で農業を営む山本はま子さんが10年ほど前、町内にわずかにクネンボの木が残っているのを発見。「香りがとても良く、地域の歴史も感じることができるクネンボを、ぜひ復活させたかった」と話す山本さん。仲間たちと共に復活に取り組み、昨年は少ないながらも一定量の収穫に成功し、直売所での販売や下田の宿泊施設でのクネンボを使ったカクテルの提供などにこぎ着けた。
クネンボをより多くの人に知ってほしいと考えた山本さんは、「伊豆下田白浜蒸留所」(下田市白浜)が新たにオープンしたことを知り、今年1月下旬、「クネンボを使った酒を造れないか」と相談を持ちかけた。山本さんも出荷者の一人として関わる「湯の花」にも相談し、最終的には「湯の花」が発注元としてのOEM製品とすることになった。
「地域に縁の深い果実を使うことは『伊豆の作物を使った酒を造ることで地域に貢献する』という蒸留所のコンセプトに合致するものだった」と話す同蒸留所の白井健太さん。「稀少な果物なので、失敗が許されないというプレッシャーと戦いながら開発を進めた」と振り返る。クネンボの独特な香りを引き出すため、あえて火を通さずに皮を漬け込み、加糖の際にはクネンボの果汁で作ったシロップも使ったという。
「湯の花」の渡邊純平店長は「生産者の作るものにいかに価値をのせるかが私たちの役割。山本さんの思いと白井さんの行動力を受け取らない手はないと考えた」と話す。「店長特権で一足先に試飲したが、めちゃくちゃおいしかった。上品かつコクのある芳醇な香りで、クネンボ独特の香りをここまで残せるのかと感動した」とも。
「南伊豆にはクネンボだけでなく、まだまだ良いものが隠れている。若い人たちに託しながら、どんどん発信していきたい」と話す山本さん。「現在確認できているクネンボの木は南伊豆の2本と下田の2本だけ。皆さんの周りにも残っている木があるかもしれないので、見つけたら教えてほしい」と呼びかける。
内容量は1本500ミリ、アルコール度数は20度で、価格は4,500円。「湯の花」の店頭のみで販売する。1人2本まで。