日本の原風景と共に富士山や駿河湾を望むことができる「石部棚田」(松崎町石部)で5月18日、水車小屋のかやぶき屋根修復が終わったことを記念した完成お披露目会が行われた。
江戸時代からの米作りの歴史を持つ石部棚田は、東日本では珍しい石積みによる棚田と、駿河湾・富士山・南アルプスを望むことができるロケーションが特徴。農林水産省が選定した「つなぐ棚田遺産~ふるさとの誇りを未来へ~(ポスト棚田百選)」の一つになっている。
一時期は大半が耕作放棄地となっていたが、2000(平成12)年ごろから地域住民が中心となって復活に向けた取り組みが行われ、現在では標高120~250メートルの場所に約370枚、4.2ヘクタールの田んぼが広がっている。
今回修復が行われた水車小屋は、地元の木材やかやを使った昔ながらの作りで、2000年ごろに建てられたもの。当初は地元の人たちにより定期的に修繕が行われていたが、経費や労力の確保が難しくなり、かやぶき屋根の傷みが徐々に進み、ここ最近はブルーシートで覆われて棚田の景観を損なうようになっていた。
その状況を見かねた同地区への移住者である木原佐知子さんが発起人となり、「かやぶき屋根葺(ふき)替えプロジェクト」を立ち上げ、南伊豆町のかやぶき職人の吉澤裕紀さんの協力や、町内団体基金「丸高愛郷報徳基金」からの援助などを受け、3月から屋根のふき替えに着手。美しいかやぶき屋根を蘇らせた。
「準備や手続きの都合で本格着手が3月からになり、かや刈りのシーズンがほぼ終盤だったため、かやを集めるのに特に苦労した」と話す木原さん。「いろいろな人から『自分も手伝いたい』という連絡を頂いたり、地元の人たちに『ありがとう』と言ってもらえたりした。屋根がきれいになっただけでなく、さまざまな人の心が動いたことが印象的だった」とも。
お披露目会当日は深沢準弥松崎町長や田植え作業に訪れた多くの棚田オーナーなども集まる中、お神酒や塩をまいてお清めし、完成祝いの餅まきも行った。プロジェクトメンバーの手によって屋根の上から餅が投げられると、小屋を囲んだ人たちが歓声を上げながら餅を拾った。
「以前のように物置小屋と化して朽ちていかないよう、維持管理を継続的に楽しめる、地域の皆さんに愛される場所にしていきたい」と話す木原さん。「昔ながらのものを見つめることで、現代に足りないものが分かることもある。そんな発見ができる場所になっていけば」と願う。