
下田市の登録まち遺産にも認定されている築170年以上がたつなまこ壁の屋敷の一部を改装した宿泊施設「源泉かけ流し なまこ壁の宿『雑忠(さいちゅう)』」(下田市一丁目)が9月21日、グランドオープンした。記念セレモニーや見学会には、市長や市議会議員、周辺住民など100人以上が訪れた。
オーナーの鈴木家は下田でその歴史を重ねてきた一族だが、20年ほど前から住み込みの管理人を置いて、同屋敷を別荘のように使ってきた。今回、鈴木家17代目(雑忠9代目)当主の実弟で、千葉県船橋市と下田市での2拠点生活を送る鈴木浩之さんが主導し、「これまでは一族だけが利用してきたこの屋敷を、もっと下田のために役立てたい」と、建物の一部を宿泊施設とすることを決めた。
宿の運営は、神奈川県湯河原町を拠点に、歴史的建築物の保存活用事業を展開する「いとへん」が担う。2024年夏に鈴木さんが同社が運営する熱海の文化財を活用した宿を利用した際に感銘を受け、建物の活用を相談した。
同宿では「奥座敷」「離れ」にそれぞれ1組ずつ、最大12人を受け入れる。いずれの客室も和室を備えており、伝統的な和の雰囲気に浸ることができる。中庭を抜けた先には、共用設備としてキッチンと浴室を備えており、家族が一緒に入れるほどの広い浴室の風呂には、下田の街なかを通る温泉管から引かれた温泉が絶えず注がれている。
当日は13時からグランドオープンを祝うセレモニーが開かれ、松木正一郎下田市長や加畑毅静岡県議会議員らが来賓として駆け付けた。セレモニーの中で、鈴木さんは「この宿ではあえて食事は提供しない。下田は新しい店がどんどんオープンして、ますます面白い町になっているので、お客さまに周囲の店を積極的に紹介して、雑忠を起点に下田のファンを増やしていきたい」とあいさつした。その後、書道家の紫雪さんと看板職人の平野知菜さんの合作で完成した宿の看板の除幕式も行われた。
セレモニー終了後から16時までは、入退場自由での建物の内覧会を開いた。地域住民やメディア関係者、石丁場見学のため下田を訪れていた静岡県立韮山高校の生徒たちなど100人以上が絶え間なく来場した。見学を終えた来場者からは「こんなぜいたくな空間なら自分も泊まってみたい」「外からはよく見ていたが、中に入るのは初めて」「街なかにこんなに広い庭がある家があるとは知らなかった」などに感想が聞かれた。正面玄関の軒先には、下田を拠点に自家焙煎(ばいせん)コーヒー豆のオンライン販売やイベント出店を行う「アノヒノコーヒー」がコーヒースタンドを出店し、汗ばむほどの陽気の中での見学会に訪れた人たちの喉を潤した。
セレモニーと見学会を終え、いとへんの中嶋純子さんは「地域の多くの人々に支えられ、雑忠が下田の象徴として歩み出す力強さを改めて感じた」と振り返る。
宿泊料金は1人2万円前後(人数により変動)で、予約はAirbnbで受け付ける。