
築100年の歴史的建築物「旧駿河屋」(松崎町松崎)での「なまこ壁」修復体験イベントが5月31日・6月14日に開かれ、各日、地元高校生や地域住民ら約10人ずつが参加した。参加者らは左官職人の直接指導の下、伝統技術を体験した。
なまこ壁は、形が海に生息するナマコに似てることから名づけられた建築様式で、明治~昭和初期の蔵などに多く見られる。見た目の美しさだけでなく、防火・防風など実用的な役割も果たす。同町では、なまこ壁のある建物が190棟ほど現存しているが、空き家化や老朽化により、その数は年々減少している。
会場となった「旧駿河屋」は、古くは回船問屋として松崎の物流を支え、その後は銀行やレコード店としても利用されるなど、町民の生活を長く支えてきた貴重な建物。持ち主である内田昭彦さんの働きかけで、技術の伝承を担う「蔵つくり隊」と共に今回のイベントを開催する運びとなった。
「蔵つくり隊」隊長の山本公さんは、イベントの目的について、「なまこ壁のある建築物は今後も減少していく。実際に修復してみることで、若い方々にその価値を再認識してもらい、保存へとつなげるきっかけとなれば」と話す。
2回目の体験では1回目の「下塗り」に続き、ひび割れ防止や強度向上を目的とした「中塗り」作業を実施。参加者は、なまこ壁修復の工程について説明を受けた後、それぞれ、コテ板、コテ、漆喰(しっくい)を受け取り、下塗りされたなまこ壁に新たに漆喰をのせ、そこから形を半楕円形に整えていく修復作業を職人の指導を受けながら進めた。
参加者からは「実際にやってみると難しいけど、楽しい」「自宅のなまこ壁を自分で直そうと思っていたが、実際にやってみると、これはプロじゃないと無理だと分かった。なまこ壁に対する認識が変わった」などの声が聞かれた。
旧駿河屋は現在、地域活性化の拠点として改修が進められている。オーナーで地元出身の内田さんは「ここは元々人が集う場所であり、そういう場のエネルギーがある。今後シェアキッチンや学生の勉強スペース、コワーキングなど多目的な利用を考えている。今回参加した人たちにも『私たちがここを直したんだ』と来る度に思い出してもらえたら」と期待を込める。