下田出身で商業写真の開祖として知られる写真師・下岡蓮杖(れんじょう)の生誕200年を記念するイベントの一つとして「幕末・明治のおもしろ写真」と題したトークショーが2月17日、道の駅「開国下田みなと」(下田市外ケ岡)で開かれた。
まだ笑顔の写真がない時代、満面の笑顔のレア写真(関連画像8枚)
登壇したのは、1941(昭和16)年生まれで、著者に「下岡蓮杖写真集」(新潮社)や「幕末・明治のおもしろ写真」(平凡社)などがある古写真研究家の石黒敬章さん。
会の冒頭、進行役の下田市議会議員・岡崎大五さんが石黒さんを紹介した後、聴講に訪れた松木正一郎下田市長や副市長らがあいさつした。
トークショーでは、石黒さんが下岡蓮杖の写真や絵画作品について、その特徴や制作背景を、時折ジョークを交えながら、冷静な分析と学術的見解を親しみやすく解説した。
下岡蓮杖は写真術を会得した後に横浜で写真館を開業したが、「撮影した写真の全てに落款を残してはいない」と石黒さんは説明。そのため蓮杖が撮影した写真を収集するのは困難を極めたが、後になってモデルになる人物の周囲に見られる撮影用の小道具や舞台の特徴から蓮杖写真を見極めることができるようになったという逸話を明かした。
その他にも興味深いエピソードを順を追って披露しながら、蓮杖の写真をスライドで紹介しながら解説した。もともと狩野派の絵師だった蓮杖の画力が垣間見える絵画作品や、横浜で開業した写真館を撮影した写真など、他では見られない貴重な資料をそろえ、満員の聴衆もじっとスライドに見入っていた。
石黒さんは「当時は笑顔の写真がほとんどなかった」と説明しつつ、笑顔が印象深い無名の女性モデルを「えみこ(笑子)さん」と呼びながらポートレート群を紹介。古写真を和やかな雰囲気でお披露目した。
約1時間の石黒さんのトークショーの後、ゲストとして訪れた女優の五大路子さんが「12日にも横浜で蓮杖祭があった。そこで下田でのトークショーのことを知って駆けつけた」とあいさつした。
進行役の岡崎さんは、五大さんが蓮杖も登場する芝居を9月に公演予定であることを紹介し、「この生誕200年記念イベントが生んだ出会いが、次の出会いや次の新たな展開につながっている。蓮杖の力を強く感じる」と話した。