下田市内で墓石をはじめとする石材を取り扱う老舗「山岸石材店」(下田市箕作)が今年で創業130周年を迎えた。
同社の創業は1895(明治28)年。親子4代にわたり石材に携わり、現在では墓石の設計から施工・点検・販売、建築石材工事や造園工事まで広く手がける。社長の山岸弘幸さんは一般社団法人「全国優良石材店の会(全優石)」の常任理事を務める一方、下田商工会議所の副会頭に就任して13年目になるなど、業界や町の重要なポストを複数担っている。
山岸さんが下田に帰郷したのは1985(昭和60)年。若い頃は家業を継ぐ意思は敢えて持たず、名古屋の大学へ進学した後はそのまま名古屋で就職。30歳になるまでは下田に戻らないと決め、バブル全盛期に経済の最前線で営業マンとして奮闘した。正月に帰省して白浜神社に初詣した際、境内の狛犬に祖父の名前が作者として刻まれているのを見て感銘を受け、後世に残る仕事をすることに改めて意識を向けた。
職人気質だった山岸さんの父は、普段は車に乗らず、隣町の仕事も遠いからという理由で断っていたという。当時の社会情勢と照らし合わせて家業に危機感を持っていた山岸さんは、1993(平成5)年の社長就任と同時に事業を法人化。生産性を考慮し、事務所とは別の場所に工場を新設した。さらに2006(平成18)年には事務所と同じ敷地内に石材の展示場を、2014(平成26)年には浜松市天竜区の船名墓地前に支店を開設した。事業基盤の強化には、前職で培った営業力が大いに役立っているという。
同社では建墓後は墓守という立場で、全優石の10年保証と併せてアフターサービスを大切にしているという。「お墓を建ててからが本当のお付き合いが始まる」と山岸さんは話す。
「少子化とデフレの影響を日々肌で感じている。墓仕舞いの相談を受けることも多くなった」と山岸さん。「事業のルーツは職人の技術。熟練の仕事と地域ならではの横のつながりをコツコツと維持することは時間がかかる。人と縁を今後もじっくりと育てていく」と力を込める。