鶏肉や卵を食べず、酒も飲まないという「河津の鳥精進・酒精進」が12月18日~23日の6日間、川津来宮神社(河津町田中)の氏子たちの間で実施されている。
川津来宮神社は平安時代の「延喜式」という書物に「杉鉾別命(すぎほこわけのみこと)神社」として記載され、1936(昭和11)年にご神木の大クスが国の天然記念物に指定されたことで知られる。
毎年10月の例大祭では、幕末の幕臣・山岡鉄舟が書いた大幟旗(おおのぼりばた)が掲げられ、「どぶろく開き」の儀式が行われる。どぶろく造りが許されている神社は全国でも限られているが、同神社もその一つ。当日は宮司が仕込んだ「神の酒」を祭神に捧げ、参拝者にも振る舞う。
河津の鳥精進・酒精進は、主祭神である杉鉾別命が酒に酔って野原で眠ってしまい、周囲を野火に囲まれた際、無数の小鳥が羽に水を含ませて飛び、水を雨のように降らせて火を消して救ったという伝承に由来する。
この伝承に基づき、杉鉾別命が災難に遭ったとされる12月18日~23日の6日間は、鳥料理や卵料理を食べず、酒も飲まないという風習が氏子たちによって現代でも守り伝えられている。この禁を破ると火災に遭うとされ、河津町の小中学校の給食メニューからも、この期間は鶏肉や卵を使った料理が外される。
氏子の中には、買い物をする際に食品パッケージを熟読し、鶏肉、卵、酒類、みりんまでもが原材料として使われていないことを徹底して確認する人もいる。結婚式などどうしても酒を飲まざるを得ない場では、グラスの上に箸を載せ、箸を橋に見立てて「ここにあるのは酒ではなく水だ」と神に断ってから飲むという慣習もあるという。
禁が始まる前日の17日の夜には、境内で「止め桝(とめます)の儀」が執り行われた。宮司の川津光宏さんが「1年の罪や穢(けが)れをはらう準備をしましょう」とあいさつし、氏子たちは鶏肉料理などを囲み、どぶろくを酌み交わした。20時過ぎ、「止めまーす」の発声とともに全員でどぶろくを飲み干し、杯を伏せた。その後、拝殿内の祭壇に杯を奉納し、神事が締めくくられた。
氏子総代の桑原康夫さんは「辛い6日間ではあるが、1年の穢れをはらい、健康にも良い機会。代々伝わるこの風習を残していきたい」と話す。